1/21 after six[13] 更新!!
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 近代日本文学っていう授業に、そいつは居たらしい。

 先日私は、友人のチトセに、ちょっと変わった学生の話を聞かされたことがあった。それが今、走馬灯のように(チガウけど)蘇ってきたのだ。二人で昼食を摂っていた時のことだ。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「さっきすごい人がいたの」

 から揚げを口に入れる一歩手前だった。それを噛み砕いて飲み込んだら、話そうと思っていた事の一字一句全てを飲み込んでしまう、それは大変、という具合だった。
「かっこいい人ってこと?」
「違う違うの。えぇとね、すごいインパクトのある人っていうの?」
 チトセはついに箸まで置いた。私は味噌汁を啜りながら首を傾けた。
「インパクト? 個性的っていうこと? よくあるAB型みたいな感じ?」
「あー、確かにABって感じだったな。でもABの進化系みたいな。そうABX型みたいな人だったよ」
「なんだそれ」

 昼休みが十分ほど過ぎ、食堂がさらに混み始めてきた。背もたれに誰かの鞄が当たったので、私はイスを引いた。チトセは食堂全体を見回して、ここには居ないみたい、と呟いた。
「さっき、近代文学の授業だったんだよね」
「あぁ、なにやってるの?」
「なぁーんか、明治とかそのへんの文学やんの。夏目ナンチャラとかの」
「読むの?」
「少しね。プリントアウトしたやつ読むの。退屈だよ。先生もムカツクんだ」
「はは。履修しなくてよかった」

 チトセはご飯を口にして、はっとした。
「いやいや、そうじゃなくて、その、スッゴイ人の話。なんかね。使ってる教室が広くて、席が段々畑みたいになってるの。60番教室」
 階段の断面図のようなジェスチャをするチトセ。教室の奥に向かうにつれて席の位置が高くなるやつか、と想像する。
「大きな教室だとさ、履修する人もたくさんいるでしょ。人がいっぱいいると、後ろの席っていつもうるさくなるじゃない。チャライ感じの人たちばっかりでずっとしゃべってるの。あのボソボソ喋りとかクスクス笑いが気に食わない! ……じゃなくて」
 私はチトセに向かって、まぁまぁ落ち着けよ、という風に手をかざした。そして冷たいお茶をさしだした。ゴクっと飲んでプハーっとするチトセ。彼女のマシンガントークは止まらない。
「そんな後ろのほうの席にね、チャライ系の男どもとは別に、見た目フツーな感じの男の子が座ってたんだよね。ちょっとかっこいい系? 弱った……ううん、キリシタンな玉山鉄二の若いころって言うの?」

 私は想像する。キリシタンな玉山鉄二? 顔はいいのかな?
「なんかそのチャラ男たちにチャカされたりしてるんだけど、まるで相手にしてないのよその人。存在自体無視、みたいな。で、今日の授業で先生がさ、後ろうるさいぞって注意して、一回じゃ効かないから、直接そっちまで歩いていったのね。いいかげんにしろって。そうするとみんな後ろのほう見るじゃない。だから一層際立つのよ。先生超怒ってたんだよね。で……」

「そのスッゴイ人が大声で歌い始めちゃったとか?」
「ううん。待って待って、これからよ。で、先生がチャラ男たちに怒鳴ったの。でもその人たちは先生の事を小馬鹿にして笑うんだよね。まぁ、そういうタイプの先生なわけ。そのあいだ、そのスッゴイ男の子はずっと、机に向かって何か書いているわけ。後ろで怒鳴ってるのに見向きもしないの。そしたら先生の怒りの矛先がその人に向かったの」
「なにしたの?ひっぱたいたりしたの?」

「イヤイヤ、違うの。フフ。先生が、その子に向かって『きみもそんなもの描いていないで授業を聞きなさい』って。なんか絵描いてたみたい。で、その人ったらさ、顔あげて真顔でよ、真顔で『あなたの授業はつまらないから聞いてられない』って言うんだよ!」
「え?」
「もうミラクルよね」
「それでどうなったの?」
「どんどん教室が静かになったの。漫画みたいだった。先生だって口あけてポカンてしてた。よく言ってくれたわぁ。なんせ本当につまらなかったから。スッゴイわ。ミラクルだったわぁ! 他の人が言うとさぁ、たまにいるじゃない生真面目な人。聞いてるこっちまで心配しちゃうような、なんか違和感あったりするじゃない。あー、そんなこと言っちゃってー。みたいな感じの」

「あぁ、あるね。あるね」
「そういうのが全くないの、違和感がないの。まさに彼のために存在する言葉だと思ったくらいだよ」
「ちょっとチガクない?」
「寝耳に水ってやつ」
「どっちかと言えば、晴天の霹靂」
「そう! それ」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 ……という会話を思い出した。チトセから聞いた人の名前も顔もわからないけれど、直感した。わかる。絶対この人だ。ロッカーに納まっている彼には全く違和感が無かったのだ。まるで昨日の夜からそうしていたみたいだ。

 とは言っても、ここから一歩引いて眺めてしまえば、とたんに変質の塊が視界いっぱいに広がることになる。

 彼自身に違和感はないのだけど、景色としては異色すぎた。さっきまでスライドで見ていた、あの楽しげな風景がもう断片も思い出せないくらいだった。頭がね、痺れちゃった。だってトランクスしか穿いてないんだよ、この人。しかも私の荷物が入っているロッカーだよ。荷物あるんだよ。しかもさっきから、コッチ見てるし。

 なんか言えよ。

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【2008/05/09 20:25】 | 小説『after six』
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