1/21 after six[13] 更新!!
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 ユキルには、子供の頃から自分にしか読めない文字があった。

 記号といっても通用する。どこの地域にも属さない、まるで子供の落書きのような型どりを、彼は解読するのだ。ユキルは、スポーツは得意だが特に優秀なわけでもない。もちろんこの文字だって古代文字だとかそういう類いではない。何度も言うが、誰が見たって、書きなぐりの、捨ててしまうようなゴミ並みのそりゃあひどい「文字」なのだ。
 
 例えるならバーコードやTVの砂嵐が近い。あとは学友に借りたノートの汚くて読めない文字だ。中にはナスカの地上絵やミステリーサークルのような形をした紙きれもあって(当時のユキルはそれが七不思議とは知らなかった。あたりまえのことだと思っていたからだ)、叔母から貰ってきたそれを読むユキルを、その時だけは両親は良く思わなかった。

そんなわけだから、いくらユキル本人が解読した文字を両親や友人に話したとしても誰も信じなかった。山の上のお城とか、扉の向こうの洞窟とか、記された通りのことを話しているのに、誰もが耳を傾けないのだ。
 はじめのうちは、両親は頷きながらユキルの話を聞いていたが、小学校の高学年になってからは、両親は返事をするだけで話をまともに聞く事はなかった。ユキル自身も中学生になったころには、世界の七不思議とかという、ミステリアスな存在を知っていたのでむやみやたらに解読した文字を話すのはやめた。そもそも、現実に存在するミステリーだって日常生活に関与することはほとんどない、ということに、このときユキルはやっと気付いたのである。

 しかし、これまでのことがあって同級生やご近所さんには変な目で見られてしまうようになったため、ユキルは両親に、文字解読を禁止させられた。ユキル自信、友達も増えないし、近所の奥さんにヒソヒソ話をさせられる両親を思うと、いままでは楽しかった文字解読が急にやましくなったのだ。

 それからユキルはいたって普通の少年を演じた。(はじめから普通の少年なのであるが)叔母は相変わらず、文字が印字された紙切れを持ってくるが、ユキルはどこか叔母を避けていた。だが叔母はそのそぶりを察してはいたものの、相変わらず、若々しい笑顔で過ごしていた。
 数ヶ月ぶりに家族で叔母の家を訪れた時、彼は久しぶりに文字を読んだ。図形の羅列のそれは、ユキルの頭の中でパズルのように組み立てられた。まるでRPGをプレイしているような感覚が好きなのだ。話のできない叔母に読み聞かせてやると喜ぶので、たまにはここに来ようと思った。このときの文字や記号にはユキルの好きな地上絵の妖精に似ていたから「妖精文字ですね」と言ったら叔母はにこやかにペンで「惜しいわね」と書いた。

 3年生になって受験勉強に力をいれなければならなかった時から、叔母とは全く会わなくなったけれど、変わりにTVの砂嵐を彼は見ていた。リモコンを握り締め、足音が聞こえるとすぐさま人間が写る番組に切り替えて無理やり笑った。砂嵐はユキルにさまざまな情報を与えた。時にはRPGのように、小説のように、ドキュメンタリーのように、説明書のように。

 ある日叔母が死んだ。受験日当日に出棺をしたので最後まで叔母には会えなかった。ユキルは悔やんだ。高校生になってすぐ、叔母が住んでいた家を片付けていた時にそれは起こったのだ。

「ユキルー? ちょっとおかーさん手伝って」
 母は1階の居間にでもいるのだろうか。距離があるためくぐもった声がかろうじて聞こえてくる。
 かび臭い地下室にいたユキルは、どんよりとした空気を跳ね上げるように、思いっきり大きな声を張り上げて返事をした。人手が足りないならイトコの家族も呼んでくればよかったのに、という苛立ちの現れだった。ただでさえ今日は友達と飲み会(アルコールは飲めないが)だったのにキャンセルしたんだ。虫の居所が悪いったらありゃしない。
少しふて腐れながら、わざと足音をたてて階段をかけあがった。母は階段を上がって右奥の、広いダイニングキッチンに居た。
「なに?」
「あっ、ユキちゃん」

 母の顔を見た途端、やれやれ、とユキルは思った。母がユキちゃんと呼ぶときはたいてい何かしらのお願いをするときで、さらに声が浮わついていると、母はいつも申し訳なさそうに口を開くのだ。それはどこか、付き合った女の子がはじめて自分にお願い事をするときのまさにその顔で、この母親は未だにそれを使ってくるのだ。

 いや、仕方ない、と思って、ユキルは子供心を落ち着かせて母に向き合った。少しだけ伸びてきた黒髪を空気に晒すように掻き乱した。
「どーしたの? おかーさん。箪笥、動かすの?」
「箪笥じゃないの、ゴキなの」
「ゴキ?」
「そう」

 あまり察したくないが母親の表情で脳みその80%は理解していたのだが、理性の20%が拒否をしている状態だった。ユキルは唇を噛みながら、母親が両手で握っているスリッパを見た。あんまり強く叩いたのかつま先部分がしなっていた。
「ゴキブリ」
 一言、やたら早口で息子にそう継げてからスリッパを渡した。コマ送りのように素早くなめらかにドアの影に隠れた。バトンタッチと言う事か。彼女はドアを楯にしてこちらを見つつも、ジェスチャで合図を送ってくる。……向こう…下……え? ……キッチンね。うん……叩けって? コレで?
 右手を何度も振り上げる母を背に、弱ったスリッパ片手にキッチンへ向かった。がんばれ剣道部、おかーさん、信じてるわ。と声が聞えた。「信じてるわ」? 女はみんな、そーいうんだよ。
 ユキルは正直、虫が苦手だ。昆虫ならまだしも、風呂場で遭遇したムカデや通学途中のハチ、もちろんゴキだって苦手なのだ。どうして男は汚れ役なのだろうと思いながらも、ユキルは静かにテーブル周りをぐるりと回った。叔母さんは掃除をあまりしていなかったのかと、今になって思う。人間だれしも蓋を開けてみなければ分からないものである。

 キッチンの棚を空けてみたりしたものの、黒いフォルムのヤツが見当たらないので、こちらからヒョイと顔をだし、母に向かって両手で×サインを出すと、母は目を丸くして首を横に降った。自分はいったい何をしているんだと思いつつも、続けてWhatのサインを出すと、同時に母が悲鳴を上げて、ユキルの斜め後ろを指差した。驚いたユキルは、振り向きざまに黒光りの高速移動物体を見つけ、身体を捻りながら勢い良く右手に持っていたスリッパを投げつけた。弾けるような音を発するも、それは移動を続け、ユキルの足もとをくぐりながら、なんと地下へ消えてしまった。

 ユキルがお手上げの表情を作って見せるも、母は握りこぶしでゴーサインを出してきた。マジかよ。と言葉を漏らしつつも、様子を見るという名目で地下に降りた。先ほどまで自分自身も地下室に居たが、黒いヤツと同じ空間にいるとなると、それだけで気持ちが悪くなった。下るほど強くなるカビの臭いが、追い討ちをかけた。階段を下りきる前に、広い地下室を眺めるが、ここから探して退治するのは苦難だと思った彼は、そのまま再び1階の母へと向かって叫んだ。
「おかーさんー!」
「なぁーにぃー」
「ちょっとさぁーー!! 広くて無理だからーーーー!」
「おかーさん、信じてるからー!」
「無理だからぁーーーー! 俺バルサン買って来るから」
 そう言いながらゆっくりと階段を昇った。
「バルサン買ってくるからさ、焚いてからにしよう。それからのほうがいいって」
「わかったわ!」
 相変わらずドアにくっついている母は、また早口でユキルに喋りかけた。言われる前に、というやつだ。
「じゃあおかーさんがバルサン買ってくるから、ユキちゃんは見張り! お願いね!」

 そう言って、エプロンを外したお出かけモードに颯爽と切り替え、叔母の家からコンビニまで旅立ってしまった。ありゃ、すぐには戻ってこないと察したユキルはため息を付きながらも、工具入れからスパナを取り出し(バットがあればもっと良かった)地下へと続く階段に座った。窓からゆっくりと風が入り込み、穏やかな情景を作り出している。叔母は一体、自分にくれたあの紙切れをどこから持ってきたのだろうという疑問が、このときユキルの脳裏に閃いた。いままでだって、不思議に思っていたけれど、解読する方に夢中になっていたので、特に気には留めていなかった。今度ゆっくり聞いてみようと思っているうちに叔母は死んだ。

 ふと、ユキルの瞼に、叔母が会話用に使っていたスケッチブックの存在が焼きついた。そういえばあれはどこに行ったのだろうと思い、母が帰ってくるまで探してみようと思ったのだ。叔母の死後、両親にはもちろん、妖精文字については訊く事ができなかったのでチャンス到来だと思った彼は、家中を歩き回った。2階に上がり、失礼しますといいながら書斎へ入った。そういえば書斎になんて入るのは初めてだった。この穏やかな家に似つかわしくない重厚なデスクに、艶やかな本棚がそこにはあった。デスクの引き出しを勝手に開けるのはさすがに気が引けたが、プレゼントの中身をゆっくりと確かめるような気持ちで、取っ手をゆっくり引いた。重く軋んだそれには、どれも分厚い本や紙切れがたくさん詰まっていたが妖精文字で書かれたものはなかった。外国語で書かれた書物がぎっしりで、ユキルにはこれが読めなかった。不思議な気持ちになった。
 ほんの少し後悔して書斎を後にした。さすがに寝室には入る気がせず、ユキルは再度、地下へと下ってみる事にした。地下という響そのものが秘密のイメージをかもし出している気がしたから……というのはこじつけで、単に女性が住んでいた家の中を一人で調べるのが嫌だったのだ。地下室ならば、何かを隠したりするのに定番の場所だし、母に地下も任せられていたので自分自身にOKサインをだして下った。

 はじめはつま先で立って歩いていたが、さすがにゴキは移動したであろうと思い込んで、4歩目からは強く踏み込んだ。古い木製のテーブルと椅子が転がり、その引き出しは先ほど調べたのだが、母の探し物すら出てこなかった。クロゼットを開く前に、横転している小豆色のソファを通過したところでユキルは足を止めた。なぜこのソファだけ横に転がっているんだと疑問に思ったユキルは、その大きなソファを正常な向き、つまり座れるように立て起こした。すると驚いた事に、起こしたソファの側面にはユキルが読める文字が刻まれていたのだ。
 心臓が一度大きく撥ねた。その、くさびのような文字に両目を這わせて、ユキルは解読した。
(……リビング!! ……右棚の上、トロフィー横の証書ファイル ……founder(?) …ユキルへ)

 感嘆と畏怖が交差した汗が身体から染み出て四散すると同時に、ユキルはリビングへと駆け上がった。文字通りに証書ファイルを手に取り、4冊目で手を止めた。
 金で縁取られた証書は、立派な作りで、それだけは紙が分厚かった。タイトルは妖精文字ではなく日本語で「導きの書」と刻印されていた。その以下に続く羅列を解読した後に、ページをめくり、彼は硬直した。
 目が、勝手に動くのだ。

 「導きの書」の表紙には、こう記してあった。
 『これを手にし、解読し、理解する少年へ。今、きみはページをめくる事になるのだが、すると不思議なことに、書を最後まで読まなければいけなくなる。この文章に驚いているきみであるが、もう魔術の効力は発揮されている。きみはページをめくる』
 ユキルの手が自分の意識とは関係なく動き、ページをめくっていた。
 
 『きみは、きみの脳裏には、いままで読んできた、いわば妖精文字の内容が焼きついているであろう。きみが解読した内容はすべて、再現され、構築されている。』
 
 『それらはすべて、わたしが指定した場所に、実際に存在している。きみはそこに向かうことが決まっている。なぜならきみは、きみが妖精文字と命名した、我らの文字を読める唯一の存在』
 
 ユキルは肩で呼吸をし、パニックになりながらも、それを読まされていた。普段ならわくわくするはずの解読が、いまでは恐怖に変わっていた。投げ出したくてもそれができない、そんな焦りや不安が彼を取り巻いた。書は続ける。

 『もうすぐきみのまわりをつなぐ扉が遮断される。きみは驚くだろう。恐れているだろうが、これはすべて、この魔術により定められしこと。それは不定だ。きみは全く納得がいっていなだろうから、自分のめで確かめるがいい。そして、きみの妖精文字を最後まで読み解くがいい』

 扉が、窓が、音を立てて激しく閉じられると、そこからはまるで光速のように、ユキルの足場が切り取られ、ガラスの破片のように消失した。まるで落とし穴にはまったような格好で、落下感に苛まれながらも必死に手を伸ばすが、抗いきれずに意識ごと暗闇の園へ落ちていった。



----------------------------------------------------------------

すごい勢いで、洪水のように溢れてきました。
どんどんこぼれるので拾い集めるのが大変でした。

もともと、この『The Founder』をメインにやっていこうとおもっていたこの小説ブログRaymondですが、冒頭から、出会いにかけてまったく浮かばなかったので、冒頭が定まっていた『after six』に先に登場してもらったのです。

そんななか、突然Founderの冒頭が出てきたので、書いてみた次第でございます。
この続きが公開されるのは、おそらくずっと先だと思うし、本公開になったら冒頭すら変わっていると思うけど、なんだかとてもトクした気分であります。

すごい現代的なファンタジーを目指して書いているものです。
本公開まえだから書けることですが、主人公のユキルくんの場合は、「読むと勝手に効力が発揮される魔術」で無意識に魔術を使っちゃってたことになります。本人だって知らなかったんですから、迷惑な話ですよね。

勢いあまって書いたので誤字あるかもしれませんが、そのときはスミマセン。

以上、こういう小説もいずれ書くよー、っていうコーナーでした。
『after six』本編も、お楽しみに☆


TOKINOより
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「ユキルー? ちょっとおかーさん手伝って」
 母は1階の居間にでもいるのだろうか。距離があるためくぐもった声がかろうじて聞こえてくる。
 かび臭い地下室にいたユキルは、どんよりとした空気を跳ね上げるように、思いっきり大きな声を張り上げて返事をした。人手が足りないならイトコの家族も呼んでくればよかったのに、という苛立ちの現れだった。ただでさえ今日は友達と飲み会(アルコールは飲めないが)だったのにキャンセルしたんだ。虫の居所が悪いったらありゃしない。
少しふて腐れながら、わざと足音をたてて階段をかけあがった。母は階段を上がって右奥の、広いダイニングキッチンに居た。
「なに?」
「あっ、ユキちゃん」

 母の顔を見た途端、やれやれ、とユキルは思った。母がユキちゃんと呼ぶときはたいてい何かしらのお願いをするときで、さらに声が浮わついていると、母はいつも申し訳なさそうに口を開くのだ。それはどこか、付き合った女の子がはじめて自分にお願い事をするときのまさにその顔で、この母親は未だにそれを使ってくるのだ。

 いや、仕方ない、と思って、ユキルは子供心を落ち着かせて母に向き合った。少しだけ伸びてきた黒髪を空気に晒すように掻き乱した。
「どーしたの? おかーさん。箪笥、動かすの?」
「箪笥じゃないの、ゴキなの」
「ゴキ?」
「そう」

 あまり察したくないが母親の表情で脳みその80%は理解していたのだが、理性の20%が拒否をしている状態だった。ユキルは唇を噛みながら、母親が両手で握っているスリッパを見た。あんまり強く叩いたのかつま先部分がしなっていた。
「ゴキブリ」
 一言、やたら早口で息子にそう継げてからスリッパを渡した。コマ送りのように素早くなめらかにドアの影に隠れた。バトンタッチと言う事か。彼女はドアを楯にしてこちらを見つつも、ジェスチャで合図を送ってくる。……向こう…下……え? ……キッチンね。うん……叩けって? コレで?
 右手を何度も振り上げる母を背に、弱ったスリッパ片手にキッチンへ向かった。がんばれ剣道部、おかーさん、信じてるわ。と声が聞えた。「信じてるわ」? 女はみんな、そーいうんだよ。
 ユキルは正直、虫が苦手だ。昆虫ならまだしも、風呂場で遭遇したムカデや通学途中のハチ、もちろんゴキだって苦手なのだ。どうして男は汚れ役なのだろうと思いながらも、ユキルは静かにテーブル周りをぐるりと回った。叔母さんは掃除をあまりしていなかったのかと、今になって思う。人間だれしも蓋を開けてみなければ分からないものである。

 キッチンの棚を空けてみたりしたものの、黒いフォルムのヤツが見当たらないので、こちらからヒョイと顔をだし、母に向かって両手で×サインを出すと、母は目を丸くして首を横に降った。自分はいったい何をしているんだと思いつつも、続けてWhatのサインを出すと、同時に母が悲鳴を上げて、ユキルの斜め後ろを指差した。驚いたユキルは、振り向きざまに黒光りの高速移動物体を見つけ、身体を捻りながら勢い良く右手に持っていたスリッパを投げつけた。弾けるような音を発するも、それは移動を続け、ユキルの足もとをくぐりながら、なんと地下へ消えてしまった。

 ユキルがお手上げの表情を作って見せるも、母は握りこぶしでゴーサインを出してきた。マジかよ。と言葉を漏らしつつも、様子を見るという名目で地下に降りた。先ほどまで自分自身も地下室に居たが、黒いヤツと同じ空間にいるとなると、それだけで気持ちが悪くなった。下るほど強くなるカビの臭いが、追い討ちをかけた。階段を下りきる前に、広い地下室を眺めるが、ここから探して退治するのは苦難だと思った彼は、そのまま再び1階の母へと向かって叫んだ。
「おかーさんー!」
「なぁーにぃー」
「ちょっとさぁーー!! 広くて無理だからーーーー!」
「おかーさん、信じてるからー!」
「無理だからぁーーーー! 俺バルサン買って来るから」
 そう言いながらゆっくりと階段を昇った。
「バルサン買ってくるからさ、焚いてからにしよう。それからのほうがいいって」
「わかったわ!」
 相変わらずドアにくっついている母は、また早口でユキルに喋りかけた。言われる前に、というやつだ。
「じゃあおかーさんがバルサン買ってくるから、ユキちゃんは見張り! お願いね!」

 そう言って、エプロンを外したお出かけモードに颯爽と切り替え、叔母の家からコンビニまで旅立ってしまった。ありゃ、すぐには戻ってこないと察したユキルはため息を付きながらも、工具入れからスパナを取り出し(バットがあればもっと良かった)地下へと続く階段に座った。窓からゆっくりと風が入り込み、穏やかな情景を作り出している。叔母は一体、自分にくれたあの紙切れをどこから持ってきたのだろうという疑問が、このときユキルの脳裏に閃いた。いままでだって、不思議に思っていたけれど、解読する方に夢中になっていたので、特に気には留めていなかった。今度ゆっくり聞いてみようと思っているうちに叔母は死んだ。

 ふと、ユキルの瞼に、叔母が会話用に使っていたスケッチブックの存在が焼きついた。そういえばあれはどこに行ったのだろうと思い、母が帰ってくるまで探してみようと思ったのだ。叔母の死後、両親にはもちろん、妖精文字については訊く事ができなかったのでチャンス到来だと思った彼は、家中を歩き回った。2階に上がり、失礼しますといいながら書斎へ入った。そういえば書斎になんて入るのは初めてだった。この穏やかな家に似つかわしくない重厚なデスクに、艶やかな本棚がそこにはあった。デスクの引き出しを勝手に開けるのはさすがに気が引けたが、プレゼントの中身をゆっくりと確かめるような気持ちで、取っ手をゆっくり引いた。重く軋んだそれには、どれも分厚い本や紙切れがたくさん詰まっていたが妖精文字で書かれたものはなかった。外国語で書かれた書物がぎっしりで、ユキルにはこれが読めなかった。不思議な気持ちになった。
 ほんの少し後悔して書斎を後にした。さすがに寝室には入る気がせず、ユキルは再度、地下へと下ってみる事にした。地下という響そのものが秘密のイメージをかもし出している気がしたから……というのはこじつけで、単に女性が住んでいた家の中を一人で調べるのが嫌だったのだ。地下室ならば、何かを隠したりするのに定番の場所だし、母に地下も任せられていたので自分自身にOKサインをだして下った。

 はじめはつま先で立って歩いていたが、さすがにゴキは移動したであろうと思い込んで、4歩目からは強く踏み込んだ。古い木製のテーブルと椅子が転がり、その引き出しは先ほど調べたのだが、母の探し物すら出てこなかった。クロゼットを開く前に、横転している小豆色のソファを通過したところでユキルは足を止めた。なぜこのソファだけ横に転がっているんだと疑問に思ったユキルは、その大きなソファを正常な向き、つまり座れるように立て起こした。すると驚いた事に、起こしたソファの側面にはユキルが読める文字が刻まれていたのだ。
 心臓が一度大きく撥ねた。その、くさびのような文字に両目を這わせて、ユキルは解読した。
(……リビング!! ……右棚の上、トロフィー横の証書ファイル ……founder(?) …ユキルへ)

 感嘆と畏怖が交差した汗が身体から染み出て四散すると同時に、ユキルはリビングへと駆け上がった。文字通りに証書ファイルを手に取り、4冊目で手を止めた。
 金で縁取られた証書は、立派な作りで、それだけは紙が分厚かった。タイトルは妖精文字ではなく日本語で「導きの書」と刻印されていた。その以下に続く羅列を解読した後に、ページをめくり、彼は硬直した。
 目が、勝手に動くのだ。

 「導きの書」の表紙には、こう記してあった。
 『これを手にし、解読し、理解する少年へ。今、きみはページをめくる事になるのだが、すると不思議なことに、書を最後まで読まなければいけなくなる。この文章に驚いているきみであるが、もう魔術の効力は発揮されている。きみはページをめくる』
 ユキルの手が自分の意識とは関係なく動き、ページをめくっていた。
 
 『きみは、きみの脳裏には、いままで読んできた、いわば妖精文字の内容が焼きついているであろう。きみが解読した内容はすべて、再現され、構築されている。』
 
 『それらはすべて、わたしが指定した場所に、実際に存在している。きみはそこに向かうことが決まっている。なぜならきみは、きみが妖精文字と命名した、我らの文字を読める唯一の存在』
 
 ユキルは肩で呼吸をし、パニックになりながらも、それを読まされていた。普段ならわくわくするはずの解読が、いまでは恐怖に変わっていた。投げ出したくてもそれができない、そんな焦りや不安が彼を取り巻いた。書は続ける。

 『もうすぐきみのまわりをつなぐ扉が遮断される。きみは驚くだろう。恐れているだろうが、これはすべて、この魔術により定められしこと。それは不定だ。きみは全く納得がいっていなだろうから、自分のめで確かめるがいい。そして、きみの妖精文字を最後まで読み解くがいい』

 扉が、窓が、音を立てて激しく閉じられると、そこからはまるで光速のように、ユキルの足場が切り取られ、ガラスの破片のように消失した。まるで落とし穴にはまったような格好で、落下感に苛まれながらも必死に手を伸ばすが、抗いきれずに意識ごと暗闇の園へ落ちていった。



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すごい勢いで、洪水のように溢れてきました。
どんどんこぼれるので拾い集めるのが大変でした。

もともと、この『The Founder』をメインにやっていこうとおもっていたこの小説ブログRaymondですが、冒頭から、出会いにかけてまったく浮かばなかったので、冒頭が定まっていた『after six』に先に登場してもらったのです。

そんななか、突然Founderの冒頭が出てきたので、書いてみた次第でございます。
この続きが公開されるのは、おそらくずっと先だと思うし、本公開になったら冒頭すら変わっていると思うけど、なんだかとてもトクした気分であります。

すごい現代的なファンタジーを目指して書いているものです。
本公開まえだから書けることですが、主人公のユキルくんの場合は、「読むと勝手に効力が発揮される魔術」で無意識に魔術を使っちゃってたことになります。本人だって知らなかったんですから、迷惑な話ですよね。

勢いあまって書いたので誤字あるかもしれませんが、そのときはスミマセン。

以上、こういう小説もいずれ書くよー、っていうコーナーでした。
『after six』本編も、お楽しみに☆


TOKINOより
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【2008/07/20 02:17】 | 言葉『創作とは妄想だ』
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倉田やえこ
ファンタジー☆
内容ももちろんですが、その文章のすごさといったら。
「例えるなら…」「そんなわけだから…」「しかし…」「それから…」
ぐんぐん取り込まれます。
続きが読める日を楽しみにしています◎

ありがとうございます
TOKINO
 コメントありがとうございます!なんだかこういうのってフっと浮かんでくるものなんですね。もっとぐんぐん、みなさんを引き込めるように、更新していこうと思います。
冒頭が書けたから、これも早めに連載、できたらいいな。

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コメント
この記事へのコメント
ファンタジー☆
内容ももちろんですが、その文章のすごさといったら。
「例えるなら…」「そんなわけだから…」「しかし…」「それから…」
ぐんぐん取り込まれます。
続きが読める日を楽しみにしています◎
2008/07/20(Sun) 10:09 | URL  | 倉田やえこ #4rqAp2Vk[ 編集]
ありがとうございます
 コメントありがとうございます!なんだかこういうのってフっと浮かんでくるものなんですね。もっとぐんぐん、みなさんを引き込めるように、更新していこうと思います。
冒頭が書けたから、これも早めに連載、できたらいいな。
2008/07/20(Sun) 22:39 | URL  | TOKINO #-[ 編集]
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