1/21 after six[13] 更新!!
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 『テストおわったー?次空きになっちゃったから、ご飯たべちゃわない?』

 『エミー玉山鉄二(笑)と一緒にいなかった? ビックリ学食にいるから来てー!チューケンの人たちもいるよ! 私、入っちゃおうかな

 立て続けに二件のメールが来ていた。高木と二人で移動中にどこかからか見ていたのかもしれない。早歩きで学食に向かった。昼休み前だからか、空いていた。カウンタのおばちゃんにも余裕がみられる。いつもの角に見慣れた顔があった。席まで進む。チトセが私に気付いて、大きな目をさらに見開き、ぶんぶん手を振る。早く! 早くっ! というふうに。

 おはようという暇もなく、チトセのスイッチがONになる。
「エミー! テストどうだった? 簡単だったら私も来年履修しよっかなー。さっきまでね、チューケンのミサコとニッシーが居たんだよ。ってエミ、玉山鉄二と居なかった?」
 そこまでを一息でいい終わり関心する私にツッコミを入れるチトセ。彼女にかかればどんな鬱だって吹き飛ぶ。
「チューケン? 変な略しないでよ」
笑いながら言って、メニューボードを見る。
「宇宙研究部、なんだからチューケンよ。あ、私今日ラーメンって気分」
「チトセはいっつもラーメンでしょ」
「今日は塩」
「イカが食べにくいよぉ、塩は」
「じゃいつもの」
「味噌ね」
「そう。エミは?」財布を出す。キラキラしている。
「うーん。今日は、高菜チャーハン」
 
 食券販売機に進み、ボタンを押している時に、改めて口を開いた。
「玉山鉄二ね、高木って、名前だった」
「名前!? そうそうエミ! アレ、高木? なんで一緒にいたのぉ!?」
目を丸くしながら問いかけるチトセを、まぁまぁ、って具合にけん制した。正直、なんて話せばいいのか分からなかった。
「高木? 高木?」
 まるで呪文を唱えるように復唱するチサキ。食券に手を伸ばす。タカナチャーハン、の印字。ぺらっぺらの紙切れ。チトセもボタンを押す。ラーメン・ミソ。そのままカウンタへ進む。歩きながらチトセがぼやく。
「なんかフツーの名前ね」
「どんな名前だと思った?」
「伊集院とか、有栖川とか」
「TVの見すぎだよ」
「だって、そんな顔してるじゃない、なんか、高貴な? 上品さがでてる気がするの」
(上品なヤツは裸足で外歩かないと思うけどね)

 自分だけしか目撃していない事は公言しないようにして、私は口をつぐんだ。カウンタではパートのおばさんが麺を茹でている。大きな鍋、というより釜からは物凄い湯気が立ち込めている。夏場は大変なんだろうなぁと思った。厨房の柱部分に、クリップで取り付けられる形の扇風機があったが、あまり効果はなさそうだった。私たちはそれぞれのメニューを受け取って席まで戻った。途中で箸を持ってくるのを忘れたがチトセが持ってきてくれた。御礼を言って、「いただきます」の前に「どうやって知り合ったの?」が飛んできた。

 私は嘘は付きたくなかったから、倫理学の授業関係で知り合った、とだけ言った。さっきはたまたま一緒に教室から出てきただけで、あとのことはよく分からない、とも言った。
 実際、彼の素性は知らないし、つっこんで問い詰めるのも気が引ける。どうも高木は、自分の周りに見えない膜のようなものを張って生きているようにしか見えない。「内緒にしてほしい」なんて男のクセに女みたいなこという奴だなぁ高木くんは、などと思ったけれど、自分が高木だったらそう言うな、と思って納得した。聞いている間、チトセは目をらんらんとさせていた。

 話が終わると、食事中だからかもしれないけれどチトセは黙った。けれどチトセの黙りは明らかにその黙りではないことはすぐに分かった。視点が定まってなくて、ずっとトレイの端っこ見てるのね。あー、こりゃもう、ハマッたのね。
 私があからさまにニヤニヤしながらチトセを見ると、彼女はそれに気付いて顔をパッとあげた。なに? という顔を取り繕ってはいるが、チトセってば嘘が下手ね。
「さては惚れたな?」
 私がそう言うと、チトセはくにゃりとして、箸を置いた。そういえばチトセは蓮華を持ってこなかったな。
「かっこいいナって。思ってたとこなの」
 
 どっちか言えば、かっこいい、部類に入るのだろう。彼の顔を思い浮かべて、私はお茶を飲んだ。
「アドレス、聞いてみればいいじゃない」
「できないよぉ!」
「おやおや、チトセったら」
 わざとらしく言うとチトセは頬を膨らませた。恋をするとアクティブになるタイプとそうでないタイプがあるなと思っていたけどチトセは明らかに後者だなって思った。いつもはハイな子だけど、こういうときはいじらしく咲いた花みたいになる。それでもチトセの場合はこの状況を楽しんでいるのだからやっぱり尊敬しちゃうよね。私もどっちかというと後者だけど、あんまりアクション起こせないからなぁ。
「ねぇ、エミはどうやってアドレスゲットしたの??」
「え?」
「片山先生のアドレスとかさ」
「えぇ? だってゼミの先生だしさ、全員の連絡先をみんな知ってるよ」
「あーあーぁーズルイなぁ」
 何かきっかけがないかな、とつぶやくチトセを見ながら、ドキドキしてきた鼓動を沈めた。私の高木との出会いの本当のトコロを離したら彼女は羨ましがるだろうか、嫌いになるだろうか……。なんなら変わってほしかったよ、とは言わずに、私はチャーハンを頬張った。しょっぱいのは涙の味、とか意味のわからない一文が脳裏をよぎった。

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【2008/07/20 19:50】 | 小説『after six』
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